門脇耕三 リオデジャネイロ・オリンピック 都市・建築の舞台裏 (PLANETSアーカイブス)
今朝のPLANETSアーカイブスは建築学者の門脇耕三さんによる、リオデジャネイロ・オリンピックの都市と建設をテーマにした寄稿をお届けします。民間での再利用を前提とした競技施設が注目を集めていますが、実際に現地ではどのような建造物が建てられているのか。リオ五輪の建築的側面を、ブラジルの都市計画の歴史を踏まえながら解説していきます(本記事は2016年8月19日に配信された記事の再配信です)。
連日のオリンピック関連の報道で、リオデジャネイロ(以下、リオと略す)の街並みや建物を目にする機会が多くなってきた。夏季オリンピックはこれまで、ヨーロッパで16回、北米で6回、アジアで3回、オセアニアで2回開かれてきたが、南米での開催は今回が初めてであり、その重責を負ったリオは、メキシコシティやサンパウロと並ぶ、南米屈指のメガ・シティでもある。リオは観光地としても世界的に有名だが、地球上での裏側に住まうわれわれにとっては、馴染みがある都市とは言いがたい。そこでこの記事では、リオ・オリンピックをさらに楽しむために、リオの都市計画とオリンピック施設の特徴を解説してみることにしよう。
▲リオデジャネイロ(出典)
■リオの成り立ちと発展
リオはポルトガル人によって1502年に発見され、港町として整備されたが、都市としての発展は18世紀前半に内陸部で金鉱が見つかったことが契機となる。金の積出港として栄えだしたリオは、1763年にはブラジルの植民地政庁の所在地(首都)となり、1822年にブラジルがポルトガルから独立したあとも、長らくブラジルの首都として発展する。しかし19世紀中頃までのリオは、まだ小規模な都市に過ぎなかった。当時の人口構成は大半が奴隷で、ごく一部の自由労働者のさらに一部が支配エリート層をなすピラミッド型の社会階層であったが、リオは長い年月をかけて浸食された巨大な奇石がそびえ立ち、低地が丘陵や山で分断される特殊な地形をしているため、すべての社会階層が比較的近接して居住していたという。
▲リオのシンボルでもある奇石、ポン・ヂ・アスーカル(出典)
19世紀末になると、ブラジルの工業化とともに、リオも巨大な労働市場を形成しはじめる。加えて、コーヒー産業の衰退に伴う農村部からの人口流入、帝政ロシアの支配地域で頻発したポグロム(流血を伴う反ユダヤ暴動)から逃れた移民の移入などにより、1872年に27万人だったリオの人口は、1900年には81万人にまで膨らむこととなる。そこで1902年に第5代大統領に就任したロドリゲス・アルヴェスは、都市計画家フランシスコ・ペレイラ・パソスをリオ市長に任命し、リオの都市改造を大規模に進めた。当時採用されたのはフランス式の都市計画であり、旧市街(セントロ)のシネランデア広場とその中心には、パリのオペラ座を模したという市立劇場や、リオ市庁舎、連邦司法文化センター(旧高等法院)など、パソスの主導により整備された新古典主義の建築が軒を連ねている。
▲リオデジャネイロ市立劇場(出典)
当時のリオの人口増加は、1888年の奴隷制廃止も大きな要因のひとつであるが、これを契機に誕生したのが、大量の都市貧困層である。20世紀初頭のブラジル経済は好調であり、この時代には政府主導型の都市政策が数多く実施されたが、その目的は、都市貧困層が不法に立てた小屋が建ち並ぶスラムである「ファヴェーラ」を解消することであった。しかし実際には、貧困層を遠隔地に追いやり、富裕層を優先する都市整備が行われたため、以降のリオには、インフラが充実した富裕層の居住地域である南地域と、インフラが未発達で貧困層が住まう北・西地域に社会階層が分断された都市構造が定着することとなる。
▲リオのファヴェーラ(出典)
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