宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

Serial

  • 2015.07.22
  • 中川大地

稀代のプラットフォーマー・岩田聡が目指したもの:〈遊び〉の力で現実世界を拡張したDS・Wii〜『ニンテンドッグス』『Wii Sports』『Wii Fit』〜(中川大地の現代ゲーム全史)

本日のメルマガは『中川大地の現代ゲーム全史』最新回をお届けします。先日、わずか57歳という若さで亡くなった任天堂の岩田聡社長。今回は、2000年代を通してDSやWiiなどを世に送り出し、「ゲーム人口の拡大」に尽力してきた岩田任天堂の軌跡を振り返ります。

日常世界を〈拡張現実〉化した「DS」擬似生命ゲーム

 『脳トレ』とならび、初期のDSらしさを演出したもうひとつの牽引作としては、様々な犬種の子犬とのコミュニケーションが楽しめる『ニンテンドッグス』(任天堂 2005年)が挙げられる。「ダックス&フレンズ」「チワワ&フレンズ」「柴&フレンズ」と、それぞれ5犬種の中から愛犬を選べる3バージョンのパッケージがリリースされた。

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▲『ニンテンドッグス 柴&フレンズ』(任天堂 2005年)

 常日頃から肌身離さず持ち歩ける携帯型ゲーム機の特性を活かして、プレイヤーの日常時間の中でバーチャルな擬似生命の世話をするという趣向自体は、前時代の「たまごっち」や『どこでもいっしょ』等と同様の発想だ。これらの過去の携帯バーチャルペットは、あくまで貧弱な表現力で描かれるディフォルメチックなキャラクターを、小さなキーホルダーのようなデバイス自体の愛らしさ込みで愛玩させるというものだったが、本作の場合は3DCGによって格段にリアリスティックに子犬たちを表現することができた。加えて、タッチペンでの愛撫や音声入力による声かけなど、DSの多様な入力方式によって、より身体的な接触性の強い愛玩の体験性を構成できたことが、際立った特徴になっていた。
 このように、通常の意味での「ゲーム」とは異なる、ユーザーの日常に溶け込む擬似コミュニケーションの体感性を増していく作品においてもDSの仕様は有利に働き、『ニンテンドッグス』はいわゆるゲームファンではない層への普及に大きく貢献することになった。

 そして『脳トレ』に対する『レイトン』と同様、後年『ニンテンドッグス』的な擬似コミュニケーションのデザインが、より従来のゲームジャンル寄りの脈絡に回収されていったのが、『ラブプラス』(コナミデジタルエンタテインメント 2009年)だったということになるだろう。15犬種の子犬を3タイプの高校生美少女に置き換えて、プレイヤーの生活時間と同期する疑似恋愛に耽溺するという趣向は、かつてコナミが初めてコンシューマーゲームタイトルとしてヒットさせた恋愛SLG『ときめきメモリアル』の進化形に他ならない。

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▲『ラブプラス』(コナミデジタルエンタテインメント 2009年)

 プレイヤーたちが「彼氏」を自称し、バーチャル彼女に入れあげる自らのキモさを自虐的にネタ化するというプレイヤーコミュニケーションの在り方も少なからずメディアの注目を集め、この時代にはニッチ化してほとんど一般のゲームファン層が触れるケースのなくなっていた恋愛題材ゲームの中で、本作は久々に広範な話題を呼ぶヒット作となった。

 おりしも同時代のアニメ分野では、『涼宮ハルヒの憂鬱』で頭角を表した京都アニメーション制作の『らき☆すた』や『けいおん!』といった作品群を中心に、劇的なストーリー性よりも、美少女キャラクターたちの他愛ない日常的なコミュニケーションの様態を子細に描く「日常系」ないし「空気系」と呼ばれるサブジャンルが人気を博していた。『ラブプラス』もまた、波瀾万丈のラブロマンスというよりも、安定した恋人関係の中での他愛ない会話やスキンシップの充実を追求した作品であり、同様の心性が通底していたと言えるだろう。
 加えて、こうした「日常系」作品では、実在の地方都市などをロケハンして背景のディテールが忠実に描かれることが少なくなく、『らき☆すた』でモデルとなった埼玉県の鷲宮神社を代表例に、ロケ地を訪問して作品世界を疑似体験する「聖地巡礼」と呼ばれるファン活動を自然発生的に誘発した。こうした特性は地方の観光振興の手法としても注目され、地方自治体や商工会などが予めコミットしてコンテンツとのタイアップを行うというケースも登場する。この流れを取り込み、2010年発売のバージョンバップ版『ラブプラス+』では、熱海市との提携のもとで1泊2日の温泉旅行に行くというイベントがゲーム内に盛り込まれ、実際にソフト持参で市内の旅館に宿泊すると割引サービスなどが受けられるといったキャンペーンも行われている。

 以上のようにDSは、〝遊び〟と〝実用〟、ゲームソフトが生成するデジタル表現とハードが持ち運ばれる現実のロケーションとを媒介する仕掛けを様々に盛り込み、まさに〈拡張現実〉的な体験性を先取りしてみせたのであった。

ゲーミフィケーションを先駆けた「Wii」の世界像

 DSと同じく、岩田任天堂の哲学を示す新たな据え置き型ゲーム機として登場したのが、06年発売の「Wii」であった。その筐体は、スーファミからゲームキューブにかけての任天堂のテレビゲーム機が、ライバル機に比べると相対的に年少層向けにターゲッティングしたSF的な玩具っぽさを持っていたのとは一転。PS2がそうだったように、縦置き・横置きのどちらにも対応できるシンプルなスクウェア型を採用し、従来機が持っていた非日常的な「ゲーム機」としての主張を排除した、リビングに溶け込みやすい装飾性のないデザインとなった。

Wii
▲Wii

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