村上春樹『女のいない男たち』から読み解く、現代日本文学が抱える困難(森田真功×宇野常寛)(PLANETSアーカイブス)
今回のPLANETSアーカイブスは、森田真功さんと宇野常寛による村上春樹『女のいない男たち』を巡る対談の再配信です。『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の翌年に刊行された本作で明らかになった、村上春樹作品に象徴される「現代日本文学」が構造的に孕んでいる矛盾と困難とは――?(構成/橋本倫史)(初出:「サイゾー」2014年8月号)※本記事は2014年8月21日に配信した記事の再配信です。
▲Amazon.co.jp 村上春樹『女のいない男たち』
森田 村上春樹の新刊『女のいない男たち』は、語るべきことも少ないし、それほど面白い小説だとも思いません。ただ、これがなぜ面白くないかを考えると、色々なことが見えてくる作品ではあるんじゃないかとは思います。
表題作の中で解説されるように、「女のいない男たちになるのはとても簡単なことだ。ひとりの女性を深く愛し、それから彼女がどこかに去ってしまえばいいのだ」というのが今回の短編集のモチーフ。特定の異性が去る/自殺する/殺されるというモチーフは、村上春樹の過去の作品でも頻繁に用いられてきた。今までと大きく違うのは、中年以降の男性を主人公にしている点ですが、それはむしろ、今作がつまらない原因になっています。これは村上春樹という作家自身の限界でもあるし、彼に象徴される日本文学の限界でもある。
宇野 村上春樹は、『1Q84』【1】の『BOOK3』以降、明らかに迷走していると思う。『BOOK3』では、『BOOK1』と『BOOK2』についての言い訳──父になる/ならないという古いテーマから逃れられないのは仕方ないじゃないかということをずっと書いているわけですよね。前作の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』【2】(以下『多崎』)でも、そうした近代的な自意識としての男性と、それを成立させるための女性的な無意識、という構造から逃れられない自分の作品世界の限界についての言い訳をずっと繰り返している。そして『女のいない男たち』になると、いよいよその言い訳しか書いていないというのが僕の感想ですね。
【1】『1Q84』:09~10年にかけ、現時点で3巻刊行(村上自身は『4』を書く可能性があるとインタビューで答えている)。1984年から異世界”1Q84”年に入り込んだ天吾と青豆の試練を中心に、宗教団体や大学闘争をモチーフに取り入れた作品。
【2】『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』:名古屋で過ごした高校時代の友人グループから、大学進学により一人で上京したのちに突然絶縁された多崎つくる。16年後、36歳になった鉄道会社社員のつくるは、デート相手の言葉によって4人の元を訪ねる旅を始める。
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