宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2016.03.15
  • 粟飯原理咲

書評サイトのジャンルに「レモン水」?――なぜ編集部の“意思”を込めたUI/UXは必要なのか(粟飯原理咲『ライフスタイルメディアのつくりかた』第4回)

本日は、アイランド株式会社代表の粟飯原理咲さんによる連載『ライフスタイルメディアのつくりかた』の第4回をお届けします。今回は粟飯原さんが自身のライフスタイルメディアのキーワードとして挙げている「共感型メディア」について。問題解決型のメディアよりも、そういうメディアの方が小さなベンチャー企業に向いていると語る粟飯原さんが、長年のサービス運営で見つけてきた知見を解き明かしています。


 

■ 共感型メディアとはなにか

第一回の終わりに、レシピブログでは「いいね!」ボタンに当たるものとして、「美味しい」ではなくて「美味しそう」のボタンをつけたという話をしたと思います。
そこでも書いたように、「美味しい」は事実の判断ですが、「美味しそう」はあくまでもユーザーの感情です。ここでボタンを設置した際に、「美味しそう」を選択したことは、私たちのメディアが感情でユーザーがエモーショナルにつながりあう場所を目指してきたことを象徴しているように思います。
私は、例えばカカクコムさんやYahoo!のように、ユーザーが抱えている問題点を解決してくれるメディアを「問題解決型メディア」と呼ぶならば、こういうユーザーがエモーショナルにつながりあう場を提供するメディアを「共感型メディア」と呼んでいます。

私たちがアイランドで運営してきたのは、レシピブログや朝時間.jpのような、まさにこの「共感型メディア」たちでした。こういうメディアを好んで運営しているのは、私自身が普段の生活の中でも、なにかを論理的に問題解決していくようなことに時間を割くより、好きな本を読んで過ごす時間などを好んでいるのもあるかもしれません。

ただ、もう少し経営者的なところからの理由もあります。
以前にも書いたように、私は新卒でNTTコミュニケーションに勤めていました。そのときに、「よせがきコム」というサービスを思いついたことがあります。このサービスは、寄せ書きがネット上で出来るというサービスで、当時は類似サービスが世の中にまだなかったので、私はそのサービスにとてもワクワクしていました。実際、最終的には18万人もの会員に使われるようになり、数年後に楽天に売却することになっています。

このサービスは、実は社内ではプレゼンしたものの通りませんでした。当時の私は、それでもこのサービスを表に出したくて、最終的には仲間と一緒に別の会社をつくって、副業として立ち上げるほどの意気込みで臨んだものでした。ところが、そうして迎えたリリース日、私はリリースした瞬間にふと「あ!」と気が付いたことがあったのです。

――もしYahoo!やソフトバンクが、同じ機能を明日にでも公開したら、私のサービスはすぐに使ってもらえなくなってしまうかも……。

結局、その不安は的中することはありませんでしたが、そのときに私は「小さなベンチャー企業が、機能オンリーで勝負を仕掛けてはいけない」と強く肝に銘じました。機能のような「問題解決」を大事にしたメディアやサービスは、ヤフーやドコモのような大手が本気で勝負を仕掛けたときに、いとも簡単に使われなくなってしまう。それは自分が大きな企業に社員として勤めていただけに、とてもよくわかりました。

その後、私は自分で起業したときに、積極的にメディアの中にエモーショナルな要素を入れるように心がけました。レシピブログは、そういう中で見つけた解答の一つであると言えるかもしれません。
料理の世界で面白いのは、栗原はるみさんの作る肉じゃがと、ケンタロウさんの作る肉じゃがでは、たとえレシピが同じであったとしても、ユーザーにとっては違う肉じゃがになってしまうことです。問題解決のメディアの発想では、なぜこんなことが起きるのかはわかりません。
その一方で論理的に問題を解決していく類の機能は、すでに先発で大きなプラットフォームになっていたクックパッドさんにお任せすればいい、と割り切ることにしました。私たちは、その中にいるユーザーがゆるやかに繋がり合ってファンになっていただき、彼らと強いエンゲージメントを築いていけばいいと思いました。

やがて時が経ち、そうしてユーザーさんたちと向き合って開発を続けていくうちに、アイランドのサービスはリアルにも飛び出して行きました。なぜかウェブの会社なのに、ユーザーさん向けのスタイリングや写真の教室を行うようになり、イベントスペースも自社に作りました。今では、年間1千人を越える方々が、私たちのスペースに足を運んでくださっています。
こんなふうに、なにがなんだかわからないけど盛り上がっている――という状態は、小さなベンチャー企業にとって、大手企業に対しての強みではないかと思います。こういう状態を作り出せるのも、「共感型メディア」の良いところだと私は思っています
今回は、この「共感型メディア」の視点から見たサービス設計、特にUI/UX設計の手法について、私たちが自社メディア運営の経験から見つけてきたことをお伝えしたいと思います。

■ フォーマットが動き方を変えていく

まずは、UI/UXの考え方について、簡単に話していきたいと思います。
まず、UIはユーザーインターフェース、UXはユーザーエクスペリエンスの略語です。前者はユーザーがデバイスを扱うときの操作、後者はユーザーがサイトを使うときの体験に関わっています。両者に共通するのは、サービス事業者の側でユーザーがサイトを使うときの行動を導き、快適な使い心地にしていくという考え方があることです。

具体的にイメージするために、例として、おとりよせネットの口コミ投稿のプロセスを見てみましょう。

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▲「おとりよせネット」の記事下のUI

まず、記事の下の方に「おいしかった」というボタンが置かれています。これは先ほどの「いいね!」ボタンの機能を果たす「おいしそう」ボタンに似ているUIですが、実は口コミの感想を投稿するためのボタンです。
ここで「レビューを投稿する」のような言い方をしていないのは、まさにおとりよせネットが「共感型メディア」であるからです。というのも、私たちが投稿して欲しいのは、単純な商品への批評ではないからです。私たちが、このサービスで提供したいUXとは、「お取り寄せ品を体験して“美味しかった”と感じた気持ちを互いにみんなで共有してもらうこと」にあるのです。そこは、例えばカカクコムさんのような、家電製品などの機能への率直なクチコミレビューが並ぶことに価値をもたせたサービスとの違いだと思います。
ですから、このボタンを押す時点で、「おいしかった」と思う人であってほしいし、その先に「よかったら、その“美味しかった”という感想を書いてくださいね」となるのです。このように、フォーマットそのものでサイトの目的を自然に提示するのは、UI/UXのとても大事な手法です。

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▲「おいしかった」ボタンを押すと上のように表示される。

ちなみに、「おとりよせネット」の方では、さらに「モニター審査」という独自の制度で、公式に選ばれた審査員ユーザーの方々に、お取り寄せ品を自宅で実食していただくという形式での口コミ評点があり、味やパッケージ、コスパなどの点で率直な評価を書いてもらっています。しかし、この場合でも私たちは入力のフォーマットを工夫しています。

上のように、まず最初のテキスト入力欄に「おすすめ」の要素を先に書いてもらいます。その上で、下のテキスト入力欄に「気になる点」の要素を書いてもらうのです。あくまでも、ネガティブな要素を知りたければ、先にポジティブな要素を見てからにしてほしい。これは私たちの意思表示ですが、レビューを読む側のユーザーにとっても、やはりまず欲しいのはその商品の良いところなのではないかと思いますし、慣れてしまうとこの形式はむしろ読みやすいものだとも感じています。
こうした編集部側の主張を入れていく工夫は、もちろんすべてのサイトにおける正解ではありませんが、とても我々のサイトらしいと思いますし、一定の成果を上げていると思っています。

■ なぜ遊び心を大事にするのか

さて、こんなふうに編集部の意思をメディアのUI/UXの部分にまで込めていくのは、ライフスタイルメディアの運営にとって、とても重要なことでもあります。

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