宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2015.12.12
  • DMM.make AKIBA,小笠原治,落合陽一,魔法使いの研究室

インターネットの理想はIoTでこそ実現される? 落合陽一 meets DMM.make AKIBA(第1回ゲスト:小笠原治・後編)

ネットでもリアル書店でも話題沸騰中の落合陽一さんの著書『魔法の世紀』。本の内容をさらにフォローアップすべく、PLANETSメルマガでは落合さん出演のイベントや記事を連続で無料公開していきます!
本日お届けするのは、日本のメイカーズムーブメントの拠点「DMM.make AKIBA(以下make)」で行われた、makeの前プロデューサーで現在はエヴァンジェリストとして活動中の小笠原治さんとの対談イベントの後編です。
この後編では、シンギュラリティ(技術的特異点)以後の人類社会の姿や、そういった大変革を促すための教育等の仕組みづくりについて語りました。


 

■ ゲートをどうなくすか?

(ここで本誌編集長・宇野常寛が登場)

宇野:一ついいですか。

いまのゲートの話について質問したいんです。先日対談したときに、小笠原さんが最近インターネットが面白くないと言っていたのですが、それって今まさにお二人が話されているように現代のインターネット業者がみんな「自分たちこそが新しいゲートである」とドヤ顔し始めたことにあると思うんですよ。

そこで特に小笠原さんに聞きたいですが、どうすればインターネットを本来の「“インター”なネット」に戻すことができるのでしょうか。

小笠原:僕としては、人間のインターネットの限界をちょっと感じ始めたというのがあります。結局、人間が商業的な活動をする以上は前に出ざるを得ないし、これがゲートみたいなものを生むのだと思うんです。それに対して、逆に物事と物事をどう繋げ合っていくかの方が僕は楽しいですね。

宇野 つまり「人のインターネット」にこだわっている限り、どんどんゲートが生まれていくし、どんどんホワイトカラーを生んでいくし、どんどん中間搾取団体を生んでいく。そして、ついにはマスメディアの劣化コピーのようなものになっていく。そういう理解でいいですか?

小笠原:ええ、そういうふうに僕は思ってます。

落合:じゃあ、アフィリエイターのことは「インターネットホワイトカラー」とでも呼ぶといいですよね。インターネットが逆に作った高知に住んでる男とか、インターネットが逆に作ったホワイトカラーとしての秒速で稼ぐ男とか、いっぱいいるじゃないですか。やっとインターネットによって脱構築できたのに、なんで構築してるんだろう、という話ですよね。

小笠原:それ、落合さんの感情からの話じゃないですよね(笑)。

宇野:でも、インターネットが登場したときには、中間的なものをなくしていく存在として正しく機能していたはずなんですよね。それがどうして、この10、20年の間に中間的なものを再生産・再定義するものとして肥大してしまったのでしょうか。

落合:エントロピー(注1)が拡散し過ぎたんだと思いますよ。そして、そういう状況でエントロピーを集約させるのに人間が必要だったんだと思います。

最初は、インターネットは情報を発散するツールではなくて、エントロピーを減らすツールだったんですよ。情報をインデックス化して、どうやって拡散したエントロピーを減らすか、みたいなことをしていたのが、いつの間にか無制限に流れ込んできた情報をユーザーが拡散させていくものになった。その結果、高知男や秒速男みたいなのが登場してきたんだと思います。でも、逆に言えば今あるキュレーションメディアくらいのことが自動で出来るようになれば、高知男の年収はゼロ円になるはずですけどね。

(注1)エントロピー:もともとは熱力学および統計力学において定義される示量性の状態量のことだが、転じて「情報の乱雑さや不確実性」という意味でも用いられる。

宇野:つまり情報が自律していないせいで、どうしても「イケダハヤト的」なゲートを必要としてしまったわけですよね。それに対して、情報同士が勝手に自律的に動いて、勝手にコミュニケーションして、擬似自然を作っていけばそれは解決するという理解でいいですかね。

落合:僕はそう思ってますね。ぶっちゃけ10年以内に人工知能は、高知男を1秒間に5人くらい作れるようになるので(笑)、そうなってきたらまた話は変わると思いますよ。

宇野:ちなみに、僕はイケダハヤトさんは普通に好きですけどね。ブログも毎日見てて、「俺、東京で消耗してる。ヤベェ、三浦半島とかに引っ越した方がいいんじゃないか」なんて、マジで思ってます(笑)。

落合:俺もブログずっと読んでるんですよね。インターネット構造に対する疑問と、彼本人のことが好きかとは別の話で(笑)。

宇野:だから、僕らはゲートにお金を発生させてる側の人間なんですけどね。本人に「高知遊びに行きたいです」とか言ったりしてますから(笑)。実際、マジで鰹(かつお)とか美味しそうですからね。

■ Q1:シンギュラリティについて

質問者A:シンギュラリティ(注2)について語ってもらえないでしょうか。

(注2)シンギュラリティ:技術的特異点=科学技術が何らかの原因で予測不能なほど爆発的に発達し始めるタイミングのこと。様々な事態が予測されるが、代表的なのは「人工知能が人間の労働分野のすべてを代替し尽くし、人間が働く必要がなくなる」といったものである。

落合:いいっすね、骨のある話題ですね。とりあえず、僕はシンギュラリティ以降は「フランスの山奥でブドウを見ながら過ごしたい」と、ずっと言ってるんですけどね(笑)。

とりあえず、Googleの社内方針の決定が人工知能で行われ始めたら、多分シンギュラリティ前夜だと思うな。どの会社を買収するか、どういうイノベーションをやっていくかの意思決定の補助に人工知能が使われだしたら、ほぼ人工知能が自分のイノベーション対象を発見することができるようになったということでしょう。

結局、人間は五感や第六感、もしくは会計学の知識を使って投資対象を見極めてますけど、あの博打のようなプロセスがなくなってしまえば、ビジネスがイラストレーターのソフトのような行為になっていく。そのとき、ビジネスはいわばデザインのようになるんです。

実際、デザインは何が良いデザインかがかなり分かりやすいけど、何が良いビジネスなのかはさほど自明ではないですよね。だから、現状ではデザインよりビジネスが上位にあるわけです。でも、その不確定性がビジネスから消えたら、大きく変わっていくと思う。

それ以降は、俺たちは、フランスの山奥でワインを飲んで暮らせばいいと思いますよ。肝臓を痛めつける行為は人間にしかできないですからね(笑)。

小笠原:僕は、シンギュラリティとビジネスの話で言うと、ビジネスは人間のためのゲームとして残って、それを人工知能が観察するんじゃないかと思いますね。

落合:つまり、ビジネスを人工知能に入力する数値の発生源として残すわけですね。それはありますね。
でも、僕は、神の死は信仰の終わりで、歴史の終わりは統治の終わりで、世界の終わりは人類的知性の終わりだと思うんですよ。シンギュラリティは人類が何もしなくて良くなる時代の到来ですから、世界の終わりですね。でも、それって人類が規則的な発展をする必要がなくなるわけで、穏やかで優しい世界なんだと思いますね。

小笠原:そういう人類の規則的な発展を許容するレベルでシンギュラリティが起こって、人類の歴史が箱庭化するんですね。

落合:でも、人間の心にどう響くかというのは、まだ博打であり続けると思いますよ。そこについては日々考えているんですよね。

ちなみに以前、山中先生とTwitterでこの話をしていたら、「人類の敗北は美しくて幸福」とおっしゃっていて、シビれましたよね(笑)。いやあ、マジでコンピュータに敗北したい。

小笠原:まあ、自分の作ったものに負けて死ぬのならいいよね。

落合:そうなったら、もうタバコを毎日2カートンぐらい吸いたいですね(笑)。そういう感じで生きたい。でも、シンギュラリティって俺たちが死ぬか死なないかという時期くらいにある程度起こると思うんですよね。(質問者Aに)ちなみに、何歳だっけ?

質問者A:15歳です。

小笠原:ウチの長男と同い年ですね。あなたの生きている間に起こる可能性はありますね。

■ Q2:ハード屋に足りないソフトの知識とは?

質問者B:ハードもソフトもできた方がいいという意見に同感します。でも、具体的にハード屋に足りないソフトの知識とは何でしょうか?

落合:GitHubを使ってますか?

質問者B:使わないですね。

落合:要は、その辺りだと思いますよ。

Githubは皆で開発のリポジトリをシェアするツールなのですが、そういう状況を想定しない人が多いように思います。みんなが使いやすい生態系をソフトウェアでどう作って、どう維持していけばいいのかを、課金のロジックまで含めて考えていくようなことを、ソフトエンジニアってのは20年間くらいやってきたんです。でも、そのメソッドがハードウェアエンジニアにはインストールされてないですね。

小笠原:インターネットの急成長の源泉は、皆で質をよくしていくためのルール作りをして、オープンにコラボレーションしてきたことなんです。そのノウハウにハードの人たちが接触しようとしないのが残念なんですよ。

要は、簡単にいうと、ネットのエンジニアはみんなで力を合わせたんです。それも楽しく、自然に。だから、何かを作るときの限界は自分の中になくて、みんなで力を合わせたときの限界になるんです。でも、ハードの人は自分の限界で止めちゃいますね。

だから、彼らはハードを作った後に、「アプリはこれから作ります」みたいな言い方をするんですよ。もったいないですよね。自分で作ったもののUIや価値観も自分でコントロールしようよ! って僕は思っちゃいます。別に習得すれば出来ることなんで、ぜひやってほしいんですよ。

落合:アセンブリより遥かに楽なのにね(笑)。

小笠原:アセンブラもシール組み込みも書ける人が、PHPのサーバサイドのアプリケーションは勘弁してください、なんて言ったりするんですよ。明らかにそっちの方が簡単だし、参考になるソースなんてネットにいくらでも落ちているのにね。

■ Q3:どういう教育をすればいいか

質問者B:教育に関してもお伺いしたいです。

落合:プロジェクトベースで教育するのが、スピード感さえ足りていれば最高の教育だと思いますね。ウチの研究室は高速でプロジェクトを回すから、トライアルアンドエラーが発生するので、学生が失敗を繰り返して立ち直っていくんです。

小笠原:いっぱい失敗するのはいいことですね。

落合:別に論文なんて、失敗したって金は取られないし、社会的信用も失わない。コンペティションでしかないんだから、そんなのどんどん出して、どんどん落ちまくればいいんですよ。僕は詰め込み教育はアカンと言われますが、詰め込みプロジェクトは良いことだと思ってます。死ななければですけどね(笑)。

小笠原:失敗をたくさんするためにスピードが必要になる、というのはわかりやすくていいですね。

ちなみに、DMM.make AKIBAも3ヶ月くらいで作ったんです。それから文句言われて直して……をずっと繰り返しながら、お金をもらってきたんです。僕らからすれば、何よりもスピードが大事なんですよ。

落合:アメリカの研究者なんて、クビになるリスクを抱えて仕事しているから、みんなシビアですよ。僕の友達なんて、ラボでクリスマス休暇を取ったやつからクビになっていったそうですよ。「お前結婚したの? クリスマス休暇取るんだ。じゃあ、お前クビな」みたいな(笑)。日本でそんな話聞いたことないですからね。

小笠原:聞いたことないですよね。

■ Q4:チームで研究をすることの意義

質問者C:デジタルネイチャー研の者なのですが、やっぱりチームで研究するのは珍しいとよく言われるんです。その意図をお聞きしたいです。

落合:ウチのラボはファーストオーサーを半年に一回、切り替えていくんです。
3ヶ月に1つプロジェクトを回すのだけど、ファーストオーサーのプロジェクトを変えていくわけです。そうすると、どんどん循環して、成功体験と失敗体験を回していくから、全部できるようになるんですよ。

一人でやるよりも役割を変えて年間スケジュールを回して行った方が、効率よく分業できるし、効率よく失敗もできる。そもそも一人一プロジェクトなんて発想でやってるのは、徒弟制が続いてきた日本の古いラボだけです。海外の成果を上げているラボは、むしろウチのようなやり方で論文がじゃんじゃん量産されてます。まあ、それを実感するにはあと2年頑張る必要があるけどね。

小笠原:なんだか会社っぽいですね。

落合:会社というかチームですよね。
でも、MITの子なら平気でやっているし、知り合いのドイツのラボもそんな感じです。もちろん、彼らのラボから出てくる論文を見ると、共著者がクルクル変わってる。3年でCHIを7本も通してるようなところになると、大体そんな感じです。ところが、日本人は全員合わせてもせいぜい1年で10本しか通ってない。全日本人より、そのドイツのラボの方が戦略が上手いということなんです。

小笠原:それは、まさに仕組みの力ですよね。

落合:そうなんです。フレームワークが違いすぎる。別に日本人の努力が足りないわけじゃなくて、フレームワークとお金が違うんです。だから、その2つを何とかすれば解決すると思いますね。

■ Q5.なぜフレームワークとお金が研究には必要か

質問者D:研究においてフレームワークとお金が重要なのはなぜですか?

落合:それは単純な話ですね。お金があると、アウトソースができるんですよ。例えば、昔はピペットドクターと言われる人がいたのだけど、もし効率よく彼らをロボットで代替できれば、その人は研究にもっと頭を使う方に時間が割けますよね。それと同じことで、金で時間を買えるのならば、なるべく金で解決していけばいいんですよ。学生時代の時間は有限ですからね。

で、フレームワークが必要な理由というのは、上手いやり方を真似できるからですよ。
例えば、毎日うさぎ跳びをしていても、ウサイン・ボルトには絶対に勝てないですよね。結局、トレーニングの仕方でアウトプットが違うことなんて、世の中には沢山あるんです。ところが、日本には100人に1人の天才がどこかに生まれていて、その天才がラボに入ってくればウチのラボは業績をどんどん伸ばすはずだ……みたいな話を、まだ信じている人がたくさんいる。

実際には、そんなことは全くないですよね。欧米の大学のスゴイところは、凡人を秀才に変えるフレームワークがしっかりとあることですよ。あっちは入ってくる学生をそんなに選別しないけど、出て行く学生は選別していく。しかも、短期間にめちゃくちゃに詰め込み教育をするわけですよ。俺たちは、そこが逆になってますよね。

もちろん、欧米式がいいとは思わないですよ。でも、負けているところはどんどんパクっていくべきですよ。メソッドやフレームワークなんていくらでもパクれるし、そこにオリジナリティなんて不要です。どんどんメソッドを調達して、貪欲に大事なことに時間を使うべきですよ。日本だって、明治時代にはドイツから教わったわけですよ。ところが、以降は今でもそれを続けているんですよね。

小笠原:なんか日本人って、一回決まったことを変えない変な癖があると思いません?
「変え続けることを変えない」というのは、僕はすごい大切だと思うんです。でも、変えたくない人はいろんな場所にいますよね。だから、変わっていない場所を見つけたら、その瞬間に疑ってかかった方がいいくらいだと思いますね。

あと、さっきのお金の話も含めて、要は落合さんは時間を大事にしようと言ってるんだと思います。ちなみに、僕は仕事をするときは、時間をお金で買うように使っています。時間の短縮というのは本当に大事だと思いますね。日本は力のかけ方を間違えていることがたくさんあると思います。

落合:めっちゃあります。俺は科学技術戦略に関して、まだやれることが沢山あると思います。日本アカデミズムの古典的な「徒弟制+税金ベースでなんとか食っていく」のをどうにかすれば、俺たちはまだ戦えるはずだと思ってますね。

(了)


 

小笠原治(おがさはら・おさむ)
1971年京都府京都市生まれ。株式会社nomad 代表取締役、株式会社ABBALab 代表取締役。awabar、breaq、NEWSBASE、fabbit等のオーナー、経済産業省新ものづくり研究会の委員等も。さくらインターネット株式会社の共同ファウンダーを経て、モバイルコンテンツ及び決済事業を行なう株式会社ネプロアイティにて代表取締役。2006年よりWiFiのアクセスポイントの設置・運営を行う株式会社クラスト代表。2011年に同社代表を退き、株式会社nomadを設立。シード投資やシェアスペースの運営などのスタートアップ支援事業を軸に活動。2013年より投資プログラムを法人化、株式会社ABBALabとしてプロトタイピングへの投資を開始。

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