宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2020.04.01

【新連載】プロデューサーシップのススメ #01 序論:プロデューサーシップを発揮するカタリストの3類型  桜庭大輔

今回から、NPO法人ZESDAによるシリーズ連載「プロデューサーシップのススメ」がスタート。東京一極集中・内需主導型では立ちゆかなくなる日本経済のこれからに向けて、諸分野のカタリスト(媒介者)たちがプロデュースする様々な化学反応の事例と考え方を紹介していきます。初回は序論として、ZESDA代表の桜庭大輔さんが、イノベーションの推進役となるカタリストの役割について、3つのタイプ別に解説します。

〈緊急告知〉
明日4月2日にオンライン開催されるイベント『Thursday Gathering #98 脱・働く③ – 「コネ・カネ・チエ」 の資本主義 – これからの時代を生き抜くために大事なこと』にて、桜庭大輔さんが登壇されます。詳細・お申し込みはこちらまで!

はじめまして? ZESDAです。

PLANETSメルマガ読者のみなさま、はじめまして。NPO法人ZESDA代表の桜庭と申します。ZESDAは、石川県能登の農家民泊「春蘭の里」関連のプロジェクトで、何度かPLANETSメルマガに登場しているので、当法人の名前をご存知の読者の方々も多いかもしれませんね。

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ZESDAは、Zipangu Economic System Design Association(日本経済システムデザイン研究会)の略称で、文字通り、日本の経済システムをデザインするために活動しています。東京一極集中型、内需主導型の経済システムではもう日本はもちません。なので、ずばり、日本の地方が海外から直接おカネを稼げるような経済システムをデザインするべく、様々なプロジェクトを行っています。

なかなか大きなテーマを掲げている団体ではあるのですが、活動はけっこう地道なこともしています。例えば「春蘭の里プロジェクト」では、外国人観光客がますます来てくれるよう、英語のHPや動画を作ったり、英語のメールのやり取りを手伝ったり、サイクリング好きの外国人向けに自転車を整備したり、古民家改修のクラウドファンディングを成功させたり、社会課題を考える実習のフィールドとして大企業に紹介したり、といった地に足の着いた活動を3年ほど積み上げてきています。

当法人は設立から今年で8年目。スタッフは現在約90名ほどいます。多くは外資/日系の大・中小企業サラリーマンですが、デザイナーやシステムエンジニア、コンサルタント、研究者、銀行員や各種士業など、様々な職業の人が在籍しています。書類と面接選考を経て採用され誓約書にも署名しています。男女比は一時期は女性の方が多かったのですが、今は男性の方が少し多いかもしれません。東京のみならず地方や海外にもメンバーがいます。全員ボランティアです。報酬は、原則おカネではなく、本業では得られない経験や人脈などを得ています。実のところ、本業と上手に絡めておカネに繋げているスタッフもいますし、転職先を見つけているスタッフもいます。換言すれば、本人が報酬に見合うと思える以上の作業はさせられていません。地方創生のような結果が出るまでに長期間かかるプロジェクトでは、本業を別に持っているプロボノ人材の方が細くとも長く腰を据えて取り組めるという長所を最大限活かしています。

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プロデュースとは何か。

さて、こうした活動を行うなかで、私たちZESDAが中心にしている方法論があります。それは「プロデュース」です。春蘭の里も「プロデュース」しています。ところで、プロデュースとは何でしょうか。「有名パティシエがプロデュースしたケーキ」「アイドルをプロデュースするゲーム」などなど、巷ではプロデュースという言葉がよく用いられ、なんとなく意味がわかったような気がしていますが、どうやら決まった定義はなさそうです。

私たちの定義する「プロデュース」とは何か。それは、一言でいうと、「何かをやりたいと思っている人に、必要な価値を注ぎ込むこと」です。

そして、必要な価値とは、おカネや人手など、もちろん様々ありますが、価値が注ぎ込まれていく経路に着眼するプロデュースにおいては、流通する価値は、詰まるところ、「チエ(経験・知見・情報・スキル等)」と「コネ(人脈・人材・信用等)」の2つだと考えています。(後述)

例えば、春蘭の里には、豊かな自然、海山の美味しい食材、そして里の永久の繁栄を願う地元のリーダーがいます。しかし、それだけでは、仕事は生まれません。おカネを稼ぎ続けられません。若い人が子育てできません。補助金(カネ)が配られたとしても、それだけでは、一時的に消費されてしまうだけです。他方で少し目線を上げると、人口が1億人を切っていく国内に対して世界には中流階級が30億人いると言われています。そして、日本文化の独自性は世界に類を見ず、地方ほど濃厚です。なので、海外と地方を結ぶ経済システムの構築(グローカリゼーション)を目指すことは、マーケティングの原則からすれば、自然な発想ではあります。ですが、これを実現するためには、英語やITやマーケティングや経営ノウハウといった都会や海外のチエや、地方を海外マーケットに繋げる能力がある都会や海外の人材とのコネを組み合わせていくことが必要となります。地方のリーダーが、独力でそのようなチエやコネを手に入れるのは、なかなか困難な実情があります。したがって、この壁を突破することがカギになります。そう、地方創生に本当に必要なのは、補助金よりもむしろ、アントレプレナーシップがある地方のリーダーに、持続可能な経済を構築するのに必要な、都会や海外のチエとコネを、グローカリゼーションが成功するまで注ぎ続ける存在なのです。

なぜ「カタリスト」が大事か

「チエ」と「コネ」をアントレプレナーに注ぐ存在。それを私たちは、総称して「カタリスト(catalyst)」と呼んでいます。「媒介者」という意味です。

私たちが勉強した範囲では、2000年代に入ってから、英語圏では、カタリストの機能を分析する学術論文が増えています。「インターミディエイト(intermediate)」とか、「ブローカー(broker)」とか、いろんな単語を使いながら、イノベーションの過程においてはイノベーター本人、起業家本人よりも、むしろ、周りのカタリストの方が、大事だったりするんじゃないの?と強調する人が増えているのです。

それまでは、イノベーションを興すのは起業家やイノベーターがやるものだ、という、ものの見方が当たり前であったように思われます。イノベーターという主役がすごい頑張って、色々な人にアプローチし、たくさん学んで、必要な資源を獲得して事業を成し遂げてきたというストーリーとしてイノベーションを捉えるわけです。当然と言えば当然でしょう。多くの成功者もそういう英雄譚を語ります。これを「起業家中心主義的イノベーション・エコシステム観」と呼びたいと思います。

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▲イノベーターから働きかけて必要な資源をかき集めている、というものの見方

しかし、近年は、そのような起業家を主語とした物語は、イノベーションのプロセスの事実実体を正しく描写しているのだろうか、という問いが立てられているわけなのです。スティーブ・ジョブズもマーク・ザッカーバーグも、最初から凄いイノベーターで、徹頭徹尾彼らの主導で事業が成功したのでしょうか。おそらく違います。色々な人々の世話になりながら大きくなったはずです。そして、彼らを世話したのは、投資家だったりコンサルタントだったり、と、イノベーターが成功することに強いインセンティブや主体性を伴ってコミットしてきた人や、乞われて力を貸したというより見返りを求めて進んで世話した人も多かったはずです。ならば、イノベーションのプロセスの主語は、イノベーターのみならず、むしろエコ・システム上の様々なアクターも含まれるのではないのでしょうか。イノベーションとは、カタリストたちが、イノベーターに様々な価値を注ぎ込んできた群像劇としてこそ語られるべきなのではないでしょうか。私たちはこうしたものの見方を「カタリスト主導型イノベーション・エコシステム観」と名づけました。

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▲カタリスト側からイノベーターに働きかけて様々な価値を注いでいるというものの見方。

このカタリスト主導型イノベーション・エコシステム観に立って日本社会を眺めなおした時、地方創生を含めて、日本社会でイノベーションを促進させていくには、イノベーター育成もさることながら、カタリストたちの自覚や活性にも、もっと力を入れるべきなのではないか、また、ZESDAもよりよいカタリストとして成長したい、という意識が芽生えてきました。そこで、2017年10月、同志の研究者の方々と共に、研究・イノベーション学会のなかにプロデュース研究分科会を設立し、様々な業界で活躍するカタリストの方々から貴重な講演をいただく勉強会を開きながら、多くの有識者や一般参加者との活発な議論を通じて、カタリスト研究を深めてきました。各講師から学んだ内容は、必ずしも、成功したイノベーターの自分語りにあるような、派手さや波乱万丈さに富んだものばかりではありません。そのかわり、クライアントとマーケットの間で働くすべての業種の方々、業界問わず、いわゆるコンサルタントと呼ばれる方々が、真の意味で付加価値を生み出す上で、貴重な示唆に富んだものばかりでした。そして、どんなコンサルタントも、本質的に、カタリストとして、イノベーションを導く先導者となる大きな可能性を秘めていること、そして、もしかしたら、イノベーターよりも、大きく付加価値を生むことができ、時にはイノベーションのプロセスのリーダーシップを握ることすらできることなどがわかってきました。大小50回以上の勉強会を重ねる頃には、「プロデュース理論」とでも呼びうるひとまとまりのテーゼもまとまってきました。

とはいえ、現実のコンサルタントたちは、苦悩しています。実際、私の友人にも超有名戦略系経営コンサルティングファームのパートナーを含め、コンサルタントが大勢いますが、気の毒なことに、自分のシゴトに失望している者は多いです。「調整ばっかりしている」「テンプレ化したコンテンツを配ってるだけ」「結局、内部資料づくりをアウトソーシングされてるだけ」「コンサル業がコモディティ化していった時代は『失われた30年』に完全に重なるんだよなあ。」「もっと知的でクリエイティブなシゴトを夢見て業界に入ったはずなのに。」という愚痴をよく聞かされます。

ならば、プロデュース研究分科会で語られたカタリストたちの講話が、全国の悩めるコンサルタントたちに広く共有されることで、カタリストとして真に覚醒した暁には、日本のイノベーションはもっと前進するのではないか。コンサルタントは手応えと勢いを取り戻し、日本経済失われた30年を超速で取り戻せるのではないか。そんな想いをPLANETS編集部に伝えたところ、共感していただくことができ、プロデュース研究分科会の講演録の一部を編集して「プロデューサーシップのススメ」と題した連載企画としてお届けしていくことになりました。誠にありがたい機会を頂戴できたことに感謝しています。

さて、前置きが長くなりました。連載第1回となる本稿では、以下、序論として、連載全体の構成の軸となるカタリストの類型について述べたいと思います。

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