宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2021.11.10

『梅切らぬバカ』── 隣家から向けられた視線|加藤るみ

今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第22回をお届けします。
今回ご紹介するのは『梅切らぬバカ』です。文化庁主催の「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」で選出・製作された、和島香太郎監督作品。とある田舎の古民家で暮らし50歳を迎える自閉症の息子・忠さんと母親の珠子、ふたりに向けられた視線の変化からるみさんが思う、他者との共存のあり方とはどんなものなのでしょうか。

加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage
第22回 『梅切らぬバカ』── 隣家から向けられた視線|加藤るみ

おはようございます、加藤るみです。

先月、じいちゃんを見送りました。

じいちゃんは7月くらいから食欲がない、食べたものの味がしないと言っていて、最初はもしかしたらコロナに感染したんじゃないか? と疑い検査をしてもらったんですが、結果は陰性。
高齢だから単に食欲が落ちたといっても、味がしないのはなんでだろうかとずっと家族で話していました。
わたしはネットで原因を探したりしたけど、わかるはずもなく……。
このご時世、検査をするにも時間がかかって、改めてコロナが憎たらしくてしょうがなかったです。
そして、原因が何かわからないまま最初に病院に行ってから1ヶ月ほどが経ち、最終的に悪性リンパ腫という血液のガンだということがわかりました。
「まさか、じいちゃんが」と思いました。
高齢とはいえ、最近まで外仕事をしていたタフな人だったし、じいちゃんの母親は110歳くらいまで生きて町から長寿の表彰をされた人でもあったので、わたしたち家族はじいちゃんも長生きするもんだろうと勝手に思っていました。
それから2、3ヶ月で容態が波のように上下するようになり、じいちゃんが亡くなる1日前に「もうあと1週間くらいかもしれません」という知らせがあって、特別に面会ができることに。
けれど、わたしと姉は大阪に住んでいるので、とりあえず2日後に会いに行くよう予定を調整しました。
間に合ってくれと願いながら。
でも、間に合いませんでした。
まさか、こんな突然だとは思いもしなかった。
その日、わたしは緊急事態宣言が明けて久々に奈良公園の近くへ夕食を食べに行っていた帰りで、駐車場でわんわん泣きました。
本当に子供みたいにわんわん泣きじゃくっていたので、さぞ鹿もびっくりしたことでしょう。
思い返すと悲しいけど笑ってしまいます。
じいちゃんは病院を転々としたけど、最後はばあちゃんが入っている介護施設に隣接された病院に入院していたので、最期はばあちゃんの手を握って亡くなったそう。
じいちゃんはおとなしくて、いつも気が強いばあちゃんに一方的に言い包められていて(笑)、わたしから見て仲が良い夫婦という感じではなかったけど、なんだかんだじいちゃんはばあちゃんのことを想っていて、最期までじいちゃんはカッコいいなと思いました。
じいちゃんが大好きでした。
小さな頃から、近くに住んでいたのもあったけど、小学生の頃は土日はほぼじいちゃんちに泊まりに行っていたので、親と同然、いや親よりも心安らぐ存在でした。
長いこと一緒にいる家族には、多少なりとも嫌なところや直してほしいところが出てきたり、「むかつく」と思うこともあるけれど、じいちゃんにかぎっては嫌なとこがひとつも見当たらなくて、とにかく優しい人でした。
寡黙だけど、たまにおちゃらけると笑顔がとてもチャーミングな人。
葬儀に来てくれた人がじいちゃんのことを「優しいおじいちゃんだったね」と、たくさんあったかい言葉をかけてくれました。じいちゃんの人柄を現すかのように。
私の知らないところで、じいちゃんがたくさんたくさん愛されていたことに涙が出ました。
じいちゃんが骨になる姿を見るのは嫌だと思っていたけど、遺骨を見たら気持ちが整理できたような気もした。
そういえば、はなちゃ(犬)のときもそうだった。
それに、「さすが丈夫なじいちゃんだわ」と、ビックリするくらいしっかりした骨で、なんだか誇らしくなりました。
改めて、自慢のじいちゃんだと思えました。
葬儀を終えて、小さな頃に「じいちゃんが死んだら嫌だな」と考えていたことが現実になってしまって、大人になって歳を取るということはどうしようもなく虚しくて切なくて、自分でもよくわからない気持ちだけど、今までの思い出を抱きしめていくしかないんだろうなと思います。
たくさん想っていたはずなのに、わたしは欲張りだから、もっともっとああしておけば、こうしておけばって考えてしまう。
昨年ははなちゃ、今年はじいちゃん。
大好きなふたり(ひとりと一匹)がいなくなったダメージはでかいけど、ふたりとも長生きして頑張ったよねと思うようにします。
そう思うしかないよね。
まだまだわたしは生きていかなくちゃいけないから、前を向いて明日も明後日もふんばります。

さて、かなり前置きが長くなってしまいましたが、この一ヶ月、じいちゃんの死があって、家族について考える時間が増えました。
自分についてもそうだけど、自分を考えるたびに一緒に浮かんでくるのは家族の存在。

今回紹介する映画は、家族がテーマのお話です。
母親と自閉症を抱える息子の日常を描いたヒューマンドラマ『梅切らぬバカ』という作品です。

若手映画作家を育てる文化庁主催の「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」において選出・製作された和島香太郎監督作。
監督は過去にドキュメンタリー映画の編集に携わり、障がい者の住まい問題に接してきた経験に着想を得て、この作品を執筆したそうです。

54年ぶりに主演を務める加賀まりこさんと、ドランクドラゴンの塚地武雅さんが親子役で共演。
都内の古民家で占い師をしている母親・山田珠子と自閉症を抱える息子・忠さんが、地域コミュニティとの不和や社会の偏見といった問題と向き合いながら、生きていくさまを描いています。

珠子は息子の忠さんと二人暮らし。
毎朝決まった時間に起床して、朝食をとり、決まった時間に家を出る。
忠さんが50回目の誕生日を迎えたとき、珠子は気づく。「このまま共倒れになっちゃうのかねえ?」と。
自立の第一歩として忠さんはグループホームに入居するも、些細な争いからグループホームを抜け出してしまう……。

この作品の空気感。
なんと言葉に表したらいいのやら……。

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