日本人はリオ五輪から何を学ぶべきか――『オリンピックと商業主義』著者・小川勝氏インタビュー | PLANETS/第二次惑星開発委員会

宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2016.08.16
  • リオオリンピック,東京五輪

日本人はリオ五輪から何を学ぶべきか――『オリンピックと商業主義』著者・小川勝氏インタビュー

今朝は『オリンピックと商業主義』の著者であるスポーツジャーナリスト・小川勝さんのインタビューをお届けします。
新国立競技場問題をはじめ、さまざまな問題を抱えながらも、4年後に迫っている東京オリンピック。政治とカネとノスタルジーが複雑に絡みあったこの状況を解きほぐす鍵は、本来のオリンピックの理念に立ち返ることだと語ります。現在開催中のリオ五輪を参照しながら、日本人は「2020年」にどう向き合うべきかを考えます(このインタビューは2016年7月22日に収録しました)。


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▼プロフィール
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小川勝(おがわ・まさる)
1959年、東京生まれ。青学大理工学部からスポーツニッポン新聞入社、野球、米国4大プロスポーツ、長野五輪などを担当、2001年に退社してスポーツライターに。著書に「イチローは『天才』ではない」(角川ONEテーマ新書)「オリンピックと商業主義」(集英社新書)「東京オリンピック 『問題』の核心は何か」(集英社新書)など。
◎聞き手:菊池俊輔
◎構成:森祐介

■どこまでを五輪開催の費用とするべきか
――今年はブラジルでリオオリンピックが開催され、4年後には東京でのオリンピックも近づいています。まずは現在のオリンピックをとりまく状況をお聞きかせください。
小川 現在のオリンピックの開催について、もっとも耳目を集めやすいのは経済的な話題でしょう。2020年の東京オリンピックを誘致するにあたっても、とにかく経済効果の大きさばかりが語られていた印象です。しかし、オリンピックというものは、本来は税金を投入して当たり前の奉仕活動でした。黒字だ赤字だと、お金の話ばかりの「商業主義」に変わってしまったのは、1984年のロサンゼルスオリンピック以降のことです。
当時の報道を知っている人にとっては、あそこから商業五輪がはじまったことは一般常識なのですが、僕より年下の方から「若い人にとっては、ロサンゼルスオリンピックは歴史上の出来事ですよ」と言われてしまって……。
そういう意味でも、『オリンピックと商業主義』を出版した2012年は良い時期だったのではないかと思います。4年前は、まさに東京五輪の誘致活動が行われている最中でしたからね。
――東京オリンピックの誘致活動が行われていたとき、「税金の無駄遣いになるから誘致はやめよう」という意見が根強くありました。しかし、実際に何にお金がかかるのかについては、なかなか分かりづらいところがあります。
小川 「何にいくらお金がかかるか」という議論の前提があやふやなのは確かです。よく「東京オリンピック開催にかかるお金」という言葉が使われますが、この言葉を使っているメディアの人たちも、内容をよく整理できていないという印象が強いです。
前回の東京オリンピックでは、柔道の会場として日本武道館を税金で作りました。あれから50年以上が経った今、「日本武道館を建てた税金はムダだった」という人はまずいません。現在ではコンサート会場としてメッカになっているなど、当時の人たちが想定していなかった使われ方もしていますが、歴史のある施設ですので、少々赤字だとしても「潰してしまおう」とはならない。
代々木第一・第二体育館や国立競技場にしても同じです。建設費用は「オリンピック開催に必要なお金」とも言えますが、同時に「公共財産をつくる事業としてのお金」でもあったわけです。東京オリンピックに間に合わせるためにつくった施設ではありますが、東京オリンピックだけにかけたお金ではない。黒字だ、赤字だという枠に、この建設費を入れてしまうのは間違いだと思います。
――当時とは社会状況も変わっています。たとえば新国立競技場について、また前回と同じような施設が必要なのでしょうか?
小川 あの場所に競技場を作ること自体は大賛成です。自然環境への影響など、まだまだ検討が必要な部分もありますが、あの施設が持つ、伝統を引き継ぐことが何より重要だと思います。サッカーの天皇杯や関東学生陸上競技連盟の大会など、さまざまな競技において、国立競技場はとても大きな意味をもった場所です。
サッカー選手にとっては、お正月に天皇杯で優勝してカップを掲げることは大きな目標のひとつですし、高校サッカーの学生たちにとっては、準々決勝まで残って国立で試合をするのが憧れです。こういった伝統はお金で買えるものではありません。多少赤字があったとしても、税金で補填して維持していく価値があるといえます。
世界的に見ても、1964年の東京オリンピックは、西洋文化の外部で開催された初めてのオリンピックです。初めてアジアで開催されたオリンピックの場所であるというだけでも、残すに値するといえます。
また、伝統の中身としては、デザインも重要です。たとえば甲子園球場にあるスコアボードはその象徴です。ほかの球場のバックスクリーンは、電光掲示板を使うのが当たり前になっています。甲子園でも導入されたのですが、「手書きの味わいは残そう」と、電光掲示でも、手書きに似たものになりました。鮮明な動画を使ってエンターテイメント的な演出をする球場もありますが、甲子園はそうあるべきではないという考え方ですね。合理性を考えたら、ほかの考え方もあるでしょう。しかし、阪神タイガースの縦縞ユニフォームがずっとそのままなのと同じで、これは理屈ではないのです。ファンが応援してきたタイガースの名シーンの記憶には、縦縞が一緒に入っている。それと同様、ファンと球団が抱えている歴史は絶対に失ってはいけないのです。
――新国立競技場に関しては、当初とは計画も変わってきました。
小川 僕は最初の計画には絶対反対の立場から、いろいろな批判を書いてきましたが、新しい計画では、多少は良くなったと考えています。ただ、いまだに施設が巨大すぎるのは事実です。2002年に日韓共催ワールドカップを行った日産スタジアムは603億円でつくれましたが、新国立競技場は計画全体の予算が1550億円となっています。日本サッカー協会は、将来的にワールドカップを招致するために「8万席の固定席をつくるように」と言っていますが、あの場所の施設に8万席を造ればそれだけ大きな競技場になる。岡田武史元代表監督も「招致できるかもわからないし、可能だとしても何年先かわからない」と仰っている。開催できたとしても使うのはそのときの1回だけです。そんなことのために競技場が大きくなり過ぎるのであれば、日産スタジアムを増築するなど、他の可能性を考えるべきでしょうね。
■ブラジル経済の影響を受けて準備がギリギリに
――今回のリオデジャネイロオリンピックについて、小川さんはどう見ているのでしょうか?
小川 比較的最近のオリンピックの開催地には大きく分けて2種類がありました。伝統国での開催と、新興国での開催。これが交互に行われてきました。たとえば2004年のアテネ大会。これは第1回オリンピックが行われた伝統国ですよね。その次の2008年の北京大会は新興国で、中国では初開催でした。2012年は開催3度目のロンドン大会。今回は新興国のリオ大会。これは南米で初めての五輪です。
今回のリオの標語は「A New World」です。オリンピックの創始者であるピエール・ド・クーベルタンが、IOC(国際オリンピック協会)を作ったときの趣旨は「世界に五輪を広げていく」というもので、それに沿ったものとなっています。

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