宇野常寛責任編集 PLANETS 政治からサブカルチャーまで。未来へのブループリント

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  • 2018.11.30

宇野常寛 NewsX vol.9 ゲスト:岩佐琢磨「ものづくりの現在」

 

宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。10月9日に放送されたvol.9のテーマは「ものづくりの現在」。株式会社Shiftall代表取締役CEOの岩佐琢磨さんをゲストに迎えて、海外のハードウェアスタートアップの動向を踏まえながら、メイカーズムーブメントを総括。今後、日本の家電産業が、いかに活路を見い出すかについて考えます。


NewsX vol.9
岩佐琢磨「ものづくりの現在」

2018年10月23日放送
ゲスト:坂口孝則(株式会社Shiftall代表取締役CEO)
アシスタント:加藤るみ(タレント)
アーカイブ動画はこちら

宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネル、ひかりTVチャンネル+で生放送中です。アーカイブ動画は、「PLANETSチャンネル」「PLANETS CLUB」でも視聴できます。ご入会方法についての詳細は、以下のページをご覧ください。
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岩佐琢磨さんの過去の記事はこちら
根津孝太×岩佐琢磨 「オープン」になる次世代自動車(前編後編
Cerevo岩佐琢磨インタビュー「ものづくり2.0――DMM.make AKIBAとメーカーズ・ムーブメントの現在」(前編後編


ものづくりのグローバルニッチ戦略

ものづくりのグローバルニッチ戦略
加藤 NewsX火曜日、今日のゲストは株式会社Shiftall代表取締役CEOの岩佐琢磨さんです。宇野さんと岩佐さんはどういう経緯でお知り合いになられたんですか?

宇野 5〜6年前に、現在はIT批評家で当時はGoogleに在籍していた尾原和啓さんがプライベートの勉強会を開催されていて、そこで知り合ったんですね。その後にNHKでも共演したことがあります。

岩佐 あと共通点は同世代です。

宇野 同い年で同じ大学なんだよ。当時、面識は全然ないけどね。

加藤 今日のテーマは「ものづくりの現在」です。宇野さん、このテーマの意図は?

宇野 岩佐さんは「Cerevo」という会社を最近まで率いていて。日本のハードウェアスタートアップを代表する会社として脚光を浴びていた。その岩佐さんが今年の4月に古巣のパナソニックに戻ったんですよ。もともとパナソニックを飛び出してCerevoをつくったんだけど、もう一回パナソニックに戻ったのでニュースになった。そこについてはいろんな評価があったんだけど、僕はすごくおもしろいと思った。そういう立場の岩佐さんから見える風景を語ってもらえば、今の日本のものづくりの本質がつかめると思って、今日はお呼びしました。

加藤 今日も三つのキーワードでトークしていきます。まず一つ目が「岩佐琢磨のこれまでとこれから」です。

岩佐 私を知らない人がほとんどだと思うので、簡単に自己紹介をします。大学を卒業して、新卒で当時の松下電器、今でいうパナソニックに入社して、5年間ぐらい勤めてから辞めました。その後、パナソニックとはまったく関係がない資本をベースに、数名のファウンダーたちと一緒に新しい事業を起業しました。それが「Cerevo」という会社です。起業したときのメンバーには最近有名になった人が多くて、メルカリの山田進太郎さん、あとはSenSproutという農業IoTベンチャーをやっている元ソニーの三根一仁さん。当時、IT業界で名前の通っていた人たちに力を借りて、3人ぐらいでCerevoを立ち上げました。山田さんたちは非常勤だったので、最初は常勤1人からのスタートで、10年で100人ぐらいの規模まで大きくしました。
今年、Cerevoを二つに分けて「Shiftall」という新会社をつくりました。そのShiftallをパナソニックグループに売却する形で、パナソニックグループの傘下に加わりました。現在の私はそのShiftallの代表を務めています。というのが大まかな私のキャリアです。

宇野 超大雑把に説明すると、一念発起してパナソニックを飛び出して、ベンチャーをやっていた人間を、パナソニックが戦略的に呼び戻したんだよね。

岩佐 ポイントは、私が個人で戻ったわけではないということで、そこがこの話のおもろしろいところです。大企業は新しい事業をやりたいとき、ヘッドハントでスゴいやつを外部から採用してくるんですが、現場がついてこないんですよ。その人がいくら旗を振っても、彼の部下になる人たちはもともとその組織にいた人なので、なかなか変わらないケースが多いんです。今回のShiftallの買収劇は、Cerevoの社員約30名が、ひとつのチームとしてパナソニックに加わっているんですね。

宇野 はっきり言ってしまうと、パナソニックは本当はCerevoを丸ごと欲しかったんだけれど、さすがにCerevoにも事業があるからですよね。

岩佐 あまり大きな声では言えないので、僕はなんとも言いません。

宇野 みんなそのことはわかっているわけだよ。

岩佐 パナソニックが規模的に大きい会社であったことと、あとCerevoも資金調達したかったんですよ。一部を切り出してパナソニックに売却することで、Cerevoも対価を得られますから。Cerevoは新しい社長を立てて、そのお金でまた新しいビジネスをやっている。いちおう八方良し。

宇野 これは異例のことだと思う。

岩佐 特に日本ではね。

宇野 パナソニックがそこまでして呼び戻したかった岩佐琢磨は、これまで何をやってきたのか、Cerevoとはどんな会社なのかをまずは紹介してもらおうと思っています。

岩佐 私はもうCerevoを離れているので、ウェブページにある程度の情報しか知らないんですよね。これはCerevoのウェブページですが、こんな感じで約30製品くらい扱っています。一番よく売れていた製品は「LiveShell」。これは手のひらに乗るような小さい箱で、これにビデオカメラをつなぐと、インターネットに映像と音声の生放送・生配信ができるんです。YouTubeライブとかニコ生とか、最近サービスを終了しましたが、Ustreamとかに映像配信ができる製品ですね。

 

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▲LiveShell

岩佐 もうひとつ、Cerevoは知らなくてもこれは知っているという人は多いんじゃないでしょうか。

 

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▲ドミネーター

宇野 当時ニュースになったもんね。

加藤 これは何ですか?

岩佐 「ドミネーター」という大人向けのおもちゃです。レプリカの銃ですが、いくらすると思います?

加藤 1万5000円ぐらいですかね?

岩佐 税抜きで8万9800円、税込だと9万円ぐらいします。

宇野 これは『PSYCHO-PASS』という深夜アニメに出てくる銃なんだけど、キーアイテムなんだよね。『PSYCHO-PASS』を象徴するアイテムで、ファンは絶対にほしいんだよ。

加藤 ファンにしたら、たまらない感じなんですね。

岩佐 『仮面ライダー』における変身ベルトのような、すごく重要なアイテムなんですが、深夜のアニメだったので視聴者の大半が大人なんですね。最近、大人の方もアニメを観るじゃないですか。そういう人たち向けに、ものすごくハイテクなギミックを入れて商品を作ってみましょうということで、それを実演しているのがこちらの動画になります。

 

岩佐 ただ光るだけの銃だと普通のおもちゃなんですが、これにはスマホのスクリーンについているようなタッチセンサーを内蔵していて、握ると動き始める。どこにもボタンは付いてないんですよ。そして、変形機構もある。

宇野 ムダに完全再現しているよね。

岩佐 音声もちゃんとアニメの声優さんを呼んで音録りをしました。コスプレイヤーの方がこれを持って演技したいとき、普通のおもちゃのスピーカーは内蔵スピーカーなので、音が聴こえないことがありますが、Bluetooth接続ができるので、レイヤーさんがポーズをとっているときに、大きなBluetoothスピーカーを置いておけば、アニメと同様に銃がしゃべっている様子を再現できるんですね。

加藤 ハイテクすぎますね。おもちゃにしてはすごい性能じゃないですか。

岩佐 そうなんです。かなり値段も高いんですが、これが飛ぶように売れました。ドミネーターもLiveShellもそうですが、Cerevoでは商材の多品種少量生産をずっとやっていて、全世界で70ぐらいの国と地域に、商品をデリバリーしていました。これはすごく面白い戦略で、1カ国で1万台売るのはやっぱり大変なんですよ。ベンチャー企業は知名度ががないし、僕らが作っている商品はすごくニッチですから、こんなので1万個も売れるのかという話なんですけれども、1カ国500台なら売れるかなと考えたんです。その考え方で20カ国に売れば、1万台いけるという話になった。さらに40カ国だと1カ国250台でよくなる。宇野さんくらいフォロワー数がいれば、250人ぐらいになら何でも売れそうな気がしません?

宇野 絶対にする。

岩佐 250台なら売れますよね。それを世界中でちょっとずつやっていけば、積み上がるでしょ。

宇野 俺みたいな物書きは言葉の壁があるから海外には売れないけど、ものだったら言葉の壁を超越しちゃうじゃん。

岩佐 極論を言うと、もう言葉はいらないんですよ。ドバイに行って実演すると「ドミネーター!」とみんな感嘆するし、中国に行っても「PSYCHO-PASSのドミネーターだ」と中国語で言ってくれる。言葉が通じなくても、「これはいくらするの?」と電卓を出してくるくらい、ものの強さは見てわかるし、触った瞬間に感嘆する。たとえ言葉が通じなくても、その場で札束が出てくる。
おもしろい話があって、AX(Anime Expo)という、アメリカのアニメファンが集う一番大きな展示会にブースを出して、その場で即売会をやったんですが、コスプレイヤーさんやアニメ好きな人たちが大勢買いに来るんです。Squareでクレジットカード決済ができるようにして売っていたら、ピカチュウのコスプレをしたお兄ちゃんが「ほしい!買う!」と言って、ポケットからブラックのカードをスッと出すんですよ(笑)。

宇野 シュールな光景だな(笑)。

岩佐 「今ほしい!すぐくれよ!」と言う人が多くて、そういう人はやっぱりお金を持っていらっしゃる。世界に目を向けると、そういう方は本当にたくさんいて、グローバルにニッチな商品を売っていくアプローチはおもしろかったですね。

宇野 グローバルニッチ戦略がとれるからこそ、少ロット生産を主にするハードウェアスタートアップが成立することを、僕は数年前に岩佐琢磨から聞いて、なるほどと思った。
ハードウェアスタートアップに関しては日本はむしろ遅れていて、海外では情報環境と流通環境の整備によって、小規模なものづくりメーカーがいっぱい出てきている。それがメイカーズムーブメントなんだけど、その潮流が今どうなっているのか、特に日本においてはどうだったのかについて、日本のメイカーズムーブメントの第一人者である岩佐琢磨に、あらためて聞いてみたいんですよ。

メイカーズムーブメントの正体と現在地
加藤 次のキーワードは「日本におけるメイカーズムーブメントはなんだったのか」です。

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